従業員が退職する場合に、記載が求められることがある退職誓約書。普段の生活で、退職誓約書はあまり馴染みがないですよね。会社の方針として退職者に退職誓約書への記載を求めているところもあるので、社会人であるなら退職誓約書がどういった書類であるかは知っておいた方がよいでしょう。
退職誓約書に関することをまとめてみたので紹介します。
退職する従業員に退職誓約書への記載を求めるのは、なぜなのでしょう。退職誓約書とはどういった書類なのか、さらに、退職誓約書にサインをしてもらう理由について解説していきます。
誓約書とは両者で交わす約束の覚書です。有名なものに機密保持誓約書などがあり、退職誓約書も、この機密保持誓約書に近い誓約書だと言ってよいでしょう。現在多くの企業が入社や退社の際に従業員に誓約書を提出させています。
退職誓約書に書かれている内容として多いのは、次の通りです。
誓約書は、当事者の一方が相手に申し入れる合意書であり、契約書の一種でもあります。通常は2部作成し、両者で保管することが多い書類ですが、退職誓約書の場合は1部のみで、企業側が所持・保管していることが多いです。
誓約書は両者のサインがあれば1部でも効力はあるので、退職者側に退職誓約書がなくても問題はありません。
誓約書は契約書の一種だと説明しましたが、誓約書と契約書には違いがあるので、厳密に言えば別の書類です。誓約書とは、当事者のどちらか一方が相手方に提出を求める合意書のことで、サイン・押印は提出を求められた側が行います。
基本的に誓約書には法的な拘束力はありませんが、サイン・押印をした時点で誓約書の記載事項に合意したことになり、社会的な重要な証拠となる書類として認められます。契約書は、契約の締結に際して双方の合意が結ばれたことを証明するための合意書のことです。契約書は2部作成し、それぞれ同じ内容のものを一部ずつ所有するようになっていますが、誓約書は必ずしも2部作成し、それぞれで所有するようにはなっていません。
企業側が退職者に対して、退職誓約書への記載を求める理由は何なのでしょうか。企業側が退職誓約書を必要とする理由には、
などがあります。それでは、詳しくみていきましょう。
退職後に、何らかの請求をしないなどのことを口頭で約束していたのに、退職者がその約束を破って退職後に残業代や退職金の請求などをしてくるケースは少なくありません。そんな約束はしていないと言い出してくる場合もありますし、口頭での約束のみだと、約束したことの内容を勘違いしていたり、聞き間違いなどが起きたりする可能性もあります。
退職誓約書を作成し、退職時に約束していたことを書面にしておけば、退職時に約束した内容と、その内容に退職者が合意したことを証拠として残すことができます。
企業側が退職誓約書を必要とする一番の理由が、退職者が働いていたときに得た業務上の情報の持ち出しや不正な利用を防ぐためです。もし、退職者の退職理由が競合する企業からの引き抜きであった場合、退職者から企業の重要な情報が漏れてしまいます。
退職者が退社した企業で得た顧客の情報や営業秘密を売ったり、その情報などを使って同業企業を立ち上げたり可能性もありますし、情報を使われた顧客から、情報管理に落ち度があったことを指摘され損害賠償請求される可能性もあります。
一定期間は競業する事業への転職しないことや、情報の持ち出しや不正な利用をしない約束を退職誓約書できちんとしていないと法的な手段は取れません。
誓約書は、退職者とのトラブルが起きた際の備えとなる書類です。なぜなら、退職誓約書は、裁判になってしまったときに、退職者と交わした約束を証明するための証拠となるからです。誓約書には法的な拘束力はありませんが、サイン・押印をした時点で、企業側が求めていることに合意したことを証明する証拠になります。もし、退職者が退職後に損害賠償などの訴えをしてきても、退職誓約書でそうした訴えをしないことを合意していれば、退職者からの訴えを退ける証拠として使えます。
退職者に業務上の情報の持ち出しや不正な利用があった場合は、退職誓約書を証拠として退職者を訴えることも可能です。民法上は口約束であっても契約は有効ですが、口約束だけでは、約束をした・していないことを証明できません。
退職者とのトラブルが起きたときの備えとして、何らかのトラブルが起きそうな可能性が少しでもあるのなら、退職時には退職誓約書へのサイン・捺印をしてもらっておいた方がよいでしょう。
退職予定者に退職誓約書の記載を求めても、全ての方が素直に応じてくれるわけではありません。なかには、退職誓約書へのサイン・捺印を拒否する退職予定者もいるでしょう。そうした場合は、どのような対応をとればよいのでしょうか。
退職予定者が退職誓約書への記載を拒否する理由は、退職誓約書にサイン・捺印してしまうと法的に拘束されてしまうと思っているからでしょう。確かに退職誓約書は、裁判などでの証拠として使える書類ではありますが、基本的には法的効力は持たない書類です。
退職誓約書は、退職時に約束したいことを退職者に伝え、お互いの合意事項等について行き違いを無くし、トラブルを防止する目的で作成する書類です。そのため、当事者間の合意と社会的妥当性があった場合にのみ効力を持つ書類です。
基本的には退職誓約書に法的効力はないことを説明すれば、記載を拒否している退職予定者が退職誓約書にサイン・捺印してもらえるかもしれません。
退職予定者が退職誓約書の記載を拒否しているからと言って、退職予定者に強制的に退職誓約書にサイン・捺印させるようなことは絶対にしてはなりません。企業側が退職時に退職者に誓約書を書かせることは違法ではありませんが、記載の強要は違法行為になります。
誓約書はあくまで従業員が雇用側に対して、ルールや約束を守ることを表明するためのものなので、一方的に企業側からサインを求めてはいけません。そのため、企業側が強制的に記載させた退職誓約書は無効になります。
退職予定者に労働者に不利益となる内容を強制させるような退職誓約書を記載させてもすべて無効になってしまいます。
退職誓約書の内容に不満があれば、退職予定者は退職誓約書へのサインや署名を拒否する権利があります。退職予定者に無理やり退職誓約書に記載させたとしても、その退職誓約書は無効となってしまう可能性もありますから、何度か説得しても退職予定者が退職誓約書への記載を拒否し続けるのなら諦めましょう。
退職誓約書に書かれている内容が合法で、さらに就業規則に退職誓約書の提出の必要性が明記されていれば、退職予定者には退職誓約書の提出の義務があります。退職誓約書に書かれている内容が合法な内容であれば、就業規則に退職誓約書の提出の必要性が明記されているので、退職時には必ず提出せなければならなくなっていることを退職予定者に伝えましょう。
アルバイトであっても、業務のなかで企業のノウハウや顧客情報などに関わっているのなら、アルバイト退職者であっても退職誓約書を作成し、サイン・捺印してアルバイト中に得た情報を漏らさないことを約束してもらっておいた方がよいでしょう。
顧客の内部情報を言いふらしたことで、情報を使われた顧客から情報管理に落ち度があったことを指摘され損害賠償請求される可能性もあります。退職者の方も、退職誓約書で約束したことに反しなければ損害賠償されたりもしませんし、円満に退職できて安心です。
アルバイトであっても、退職時には退職誓約書を提出することが就業規則に明記されていたり、採用時の契約書に退職時には退職誓約書を提出することが書いていたりした場合は、アルバイト退職者でも退職誓約書は必要です。
退職誓約書の記載ミスが誓約書の内容を根底から覆すような内容であれば、その退職誓約書は無効となるので退職先に伝える必要がありますが、日付の記載ミスぐらいでは単なる誤記と考えられるのが一般的です。退職誓約書にサイン・捺印したけど、退職誓約書の内容に不満があり、その日付の記載ミスを理由に、退職誓約書の無効を訴えても、その訴えは通らないでしょう。
退職誓約書に必ず記載しておいた方がよい記載事項は、次のとおりです。
誓約する者にサイン・捺印してもらわないとなりませんから、そのための欄も作っておきましょう。退職誓約書を作成する場合に、注意しなければならないのは、誓約する内容(禁止される行動)と誓約に反した場合の罰則です。過失での損害賠償の請求や残業代の請求の権利の放棄などを誓約書に盛り込むのは法律で禁止されています。また、退職者の職業選択の自由を妨げるような内容も法律で禁止されています。
競業避止義務や守秘義務のために退職誓約書で転職先を制限したり、転職を一定期間制限したりする場合などでも、一般的な知識や経験なら問題になりませんし、制限する期間は短いものしか有効となりませんので注意しましょう。誓約する内容(禁止される行動)や誓約に反した場合の罰則は、合理的な範囲を超えないものであることがポイントです。
情報の持ち出しや不正利用を防ぐためにも退職者に退職誓約書を書いてもらうのは現在の企業においては必須事項です。退職誓約書には決まった様式(フォーマット)はないので、上記で紹介した記載事項が書いてあれば自由に作成できます。安易に作成した退職誓約書だと、法律上有効な誓約書にならないこともあるので退職誓約書は正しく作成しましょう。
退職誓約書の雛形を利用する場合、退職者によって誓約する内容(禁止される行動)や誓約に反した場合の罰則が違ってきますし、具体的な誓約する内容が記載されていないと、退職誓約書が無効になってしまうケースもあるので、安易に雛形をそのまま使用することはやめた方がよいです。
退職者には退職誓約書の記載を拒否する権利がありますし、退職者に不利益なことを退職誓約書で強制することもできません。退職誓約書の正しい取り扱い方について、本記事を参考にしていただければ幸いです。